1週間に一度しか物資の届かないこの島で生活している私たち。すべての食料品において、新鮮さを求めることはできません。
そんな環境において、亜熱帯という気候の中で栽培できる野菜を研究し、新鮮な野菜を提供してくれる農家さんはありがたい存在です。
多くのファンを抱える、冬野菜の『島セロリ』
そのセロリが美味しすぎると絶賛していたら、内地在住の知り合いから『普通のセロリと島のセロリは何が違うの?』と聞かれました。
…島の野菜は鮮度が高いから美味しいのかと思っていたけれど… セロリ嫌いな人をセロリファンにさせるほどの味には、ほかにも理由があるのでは?
そう思って、島で唯一セロリを栽培している森本農園のオーナー・かおりさんにお話を伺ってみたところ、彼女の野菜作りに対する大きな愛が見えてきました!
また、島野菜と一般的な野菜は何が違うのかも教えていただきました。
*小笠原のセロリって、なんでこんなにおいしいの!?
*島野菜が美味しいと言われる理由が知りたい
一般的な野菜のえぐみやセロリの苦味の原因とは
嫌われ野菜の1、2位を争うセロリ。その理由は苦味にあるようです。にんじんやホウレン草なども、苦味やえぐみを感じることってありますよね?
でも森本農園のセロリにはイヤな苦味がないし、にんじんや色の濃い葉物野菜にもえぐみがありません。 有機農法を取り入れている森本農園の野菜は、ほかの野菜と何が違うのでしょう…?
野菜の苦味やえぐみは、栄養過多の土壌にあった
野菜の苦味やえぐみは、肥料の影響を受けていることが多いようです。
根っこから吸い上げた肥料の栄養と太陽からのエネルギー、空気中の二酸化炭素を材料にして育つ野菜。肥料を与えすぎるとそのバランスが崩れてしまい、野菜の受けるストレスが苦味やえぐみを作り出す原因になるのです。
畑で使用する農薬が少ないというのも美味しさの要因のひとつではあるのですが、適度に栄養の整った土壌で育てるということも大切な要素なのですね。
島野菜と一般的な野菜の味の違いは、畑の土壌の違いだった!
20年以上にわたって土地に合った有機農法を研究し、おいしい野菜を提供してくれている父島の森本農園。毎日飲食店や宿泊施設を回って生ごみを集めています。
毎日集めている生ごみって、どう利用しているのですか?
これで堆肥をつくるのよ!
そこで今回、農園ボランティアに参加し、オーナーのかおりさんに堆肥作りの様子をみせてもらいながら、お話を聞かせていただきました。
セロリだけじゃなくほかの野菜もおいしいのは、農園の土がいいからなのでしょうか?
うちは、ぜーんぶ島のものを使って堆肥を作っているの。
それを土に混ぜているのよ。
毎日手をかけている堆肥舎
堆肥の材料は
島の外来種駆除で伐採された樹木の木材チップと浄水場で使われた活性炭
漁師さんから届く魚のアラ
飲食店を廻って回収している生ゴミや廃油などなど。これらを合わせて毎日かき回し、発酵させます。
堆肥の蓋にしているゴザを開けると、なんと、蒸気が立ちます。
発酵する過程で熱が生じるので、堆肥の中心温度は80℃にもなるそうです。
そこへ天水(貯めた雨水)をかけ、前日に回収した魚のアラや生ゴミ、米ぬかを入れて上下を入れ替えるという作業を、かおりさんは毎日行っているのです。
約3か月で発酵が落ち着き、温度も下がって熟成した堆肥となります。
ひとつかみの堆肥の中に数えきれないほどの微生物(菌)が働いているの。
うちの堆肥を作っている微生物は全部、島にいる菌なのよ。
土壌内の微生物が豊かであるということは、土壌内で植物が効率よく使用できる窒素を生み出すことにつながります。これは植物のエネルギーの削減にも影響し、うまみの増加にもつながるのです。
目に見えないようなちいさな微生物も、立派な生き物。
森本農園の畑では、すべてこの島で生まれたたくさんの生き物が、この島の土壌に合った働きをしてくれているからこそ、島に住んでいる私たちがおいしいと感じる野菜が育っているのですね!
北海道や高原野菜のおいしさは、昼夜の気温差から
では、一般的に有名な『北海道産』や『高原野菜』『京野菜』は、なぜおいしいのでしょう?
こちらも土壌の違いがあるのでしょうか?
調べてみたところ、それは土壌の違いというよりも、昼夜の気温差にありました。
昼夜の温暖差が激しいほど、野菜の糖度は高まると言われています。日中の光合成によって蓄えられた糖分は気温の下がる夜間に使われることがないので、そのまま野菜のうまみとして蓄えられるのです。
日本の最北である北海道では、夜間の気温はひとケタでも昼間には気温が30℃になることもあるそうです。
『高原野菜』の代表的な地、群馬県の嬬恋村は標高が高いため、晴れた日の夜は放射冷却によってグッと気温が下がります。
また、昼夜の気温差が激しい盆地である京都の『京野菜』がおいしいのも、その気候が影響しているのですね。
父島の山に囲まれた盆地にある森本農園は、亜熱帯の小笠原といえども冬場の早朝には気温が5℃まで下がることもあります。晴れれば、真冬の日中でも20℃以上になります。
セロリに代表される冬野菜・葉物野菜であるキャベツやレタス、白菜などがおいしいのは、この昼夜の気温差も影響しているのですね。
九州南部の野菜のおいしさは山と海のミネラルの融合から
それでは、九州の野菜がおいしいと言われるのはなぜでしょう?
九州南部の熊本や鹿児島は火山地域であり、溶岩の熱によって溶かされた鉱石が土の中のミネラルを作り出し、溶岩が冷えて固まったことで土の中にできる空洞が水の吸収と水はけのよい環境を作っています。
台風も多いので、その時の強い風に乗ってくる海からのミネラルを含んだ水と鉱石を含んだ山のミネラルとが合わさることで、栄養豊富な水分が土に吸収されて、土壌を豊かにしているのです。
活火山ではないけれど、海底火山によってできた小笠原諸島。山から流れ込む水には鉱石のミネラルが含まれ、台風による暴風雨によって海のミネラルも畑に届いているということになりますね。
山と海と人間の生活を循環させている畑
島の中で、山に囲まれた盆地にある森本農園。
山を通って流れてくる川の水が畑の野菜たちに吸収され、畑から流れていく水は海へ。
そして、海で取れた魚のアラが再び畑へ。
まさに、この島の水や生物がこの畑を通過しながら循環しています。
地球本来の自然界の循環を、農園オーナーのかおりさんがさらに濃くして、何十年もかけて、畑を育ててきたのです。
そして亜熱帯気候ではあるけれど、冬場は特に昼夜の気温差が激しくなる盆地にある畑。
この島の恵みと、かおりさんの愛情がたくさん詰まった畑で育てられた野菜たち。
これが、島野菜の美味しい理由ですね!
定期船・おがさわら丸で週に一度運ばれてくる野菜よりも島野菜がおいしいのは、鮮度だけではなかったのです。
感動!
2週間の定期船ドック中に、島民に潤いを与えてくれた野菜たち
島で唯一の交通機関であり、生活の糧である定期船・おがさわら丸。
毎年1月中旬から2月初旬にかけて内地の造船所ででドックを受けるので、その約2週間の間、小笠原には物資が届きません。
(2021年より、おがさわら丸のドックは5月に行われるようになりました)
そんな島の住人に、ドック中でも新鮮な野菜を食べさせてあげたいというのが、かおりさんの以前からの願いでした。
この島の気候でその時期に提供できる野菜を調べ、研究し、いちばん最初に成果のあがったのがセロリだったのです。
そしていまでは若手の農業希望者を受け入れて育て、野菜の種類も増えて、その味も美味しくなりました。
堆肥を作り続けて土を耕すことによって畑の土が熟成してきたからこそ、野菜もおいしくなってきたのよ。
野菜作りと島民への愛が詰まっていますね♡
今年(2019年)の定期船ドック中、スーパーの棚には森本農園の野菜がズラリと並び、野菜不足を感じることのない食卓に恵まれて、私たちの心も身体も潤わせてくれました。
まとめ
今回、島のセロリはどうしてこんなに美味しいのかしら?という疑問から調べ始めた『美味しい野菜の理由』
昼夜の気温差が大きい盆地に畑があること、山と海の豊富なミネラルを受けられる環境であること、は大きな理由のひとつです。
でも、いちばんの大きな理由はやはり、農園オーナーのかおりさんが20年以上にもわたって研究と努力を続けてきた土壌づくりにあると感じました。
愛情込められた野菜たちに感謝して、今日もおいしくいただきます♪**
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