『いままででいちばん印象に残るダイビングは?』
と聞かれたら、迷うことなく
『夜明けのドブ磯』と答えます。
『ドブ磯』
…あまり美しい名前ではありませんね^^;
島に古くからあるダイビングポイントは、
漁師さんの漁場の呼び名がそのままポイント名になっていることが多いので
『万作』『万蔵』『倉蔵』など人の名前がついていたり
『巽』『瀬戸』『吐き出し』など、地名や海域名が反映されていたりします。
『ドブ磯』は外洋に面しているポイントで
その根の海水面に出ている浅瀬に常に潮があたり
白く泡立っているように見えるので、その名がついたようです。
潮の流れが早く、小魚の群れや大型回遊魚が狙えるポイントなので
小笠原に通うダイバーには人気のポイントです。
風向きや潮の流れの影響が大きく、
いつでも潜れるポイントではないだけに、
あこがれや特別感が大きいのでしょう。
ある夏。
私の働いていたショップで
父島周りで、船で泊まりのツアーを開催することになりました。
父島の各ダイビングサービスには
『泊まりケータ』と称されるツアーが
6月下旬から7月中旬にかけて開催されます。
『ケータ』とは聟島(むこじま)列島周辺のことで
父島より北へ50~80kmの海域です。
日帰りで行くにはポイントが限られてしまうので、
船で泊まれるように準備をして遠征し、
普段は潜ることのできないようなダイナミックな水中景観を楽しむ、
アドベンチャー要素たっぷりのツアーです。
2日間かけて出かけるので、
通常はおがさわら丸の出港中に開催されます。
その夏は
島に住みながら毎週のように潜りに来ているゲストが
どうしても『泊まりケータ』の日程に合わせて職場を休むことができず
『父島周辺でもいいから、泊まりでダイビング&クルーズ三昧をしたい』
とリクエストをいただいたき、スタッフみんなで考えました。
おがさわら丸入港中なら、
夕方港へ戻ってデイ・ツアーのゲストを下ろし
そんままサンセットクルーズ、船上ディナー、早朝ダイビングが可能です。
早朝ダイビングの後に、再び港へ戻ってデイ・ツアーのゲストをピックアップすればいいのです。
ダイビングだけで語れない『泊まりケータ』の魅力を知っている彼女のリクエストを
『泊まりケータ』大好きなスタッフが揃っていたからこそ、実現に至れたのだと思います。
父島周辺で、早朝はどこに潜ろうかという話になった時
全員一致で『ドブ磯』でした。
何度潜っても違う表情を見せてくれる有名ポイント。
でもまだ、早朝の表情は誰も知りません。
有名処の『誰も見たことのない景色』
ああ、なんて心が躍るのでしょう!
当日。
日の出前に船のアンカーをはずし、
美しい朝焼けに見惚れながらポイントへ到着。
そして 期待に胸をふくらませながら、まだ薄暗い中にエントリー。
はたして…
そこには
とても静かな世界が広がっていました。
いつも目にしていた早い流れ、キラキラと輝くサカナの姿はなく
シーンとしていて
薄暗いのにどこまでも見える透明感。
広がっている景色を表現するなら
『宇宙』
きっと、
それを一緒に体験した数名にしかわからない感覚でしょう。
あれから10年を過ぎたいまでも、
はっきりと感じることのできる美しい景色。
私の中の、たいせつなものです。
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